いやぁ、8月はネタがないですね(時候の挨拶)。
せっかくなので、不動産テックというよりもおうちダイレクトの小ネタでも。私がソニー不動産およびおうちダイレクトをこのブログで頻繁に取り上げるのは、本来湾岸タワーマンションにどんぴしゃではまりそうなサービスであり、その時々の事象や自分の考えをログで残しておき、なぜうまくいかないかの考察を私の中で整理を付けておきたいからです。
週間ダイヤモンドにこんな記事が上げられています。1年前に不動産業界の両手仲介を悪弊として告発し、ソニー不動産を白馬の王子様ばりに称えていた雑誌です。
ヤフーとソニー不動産の新サービスが伸び悩む理由
週間ダイヤモンド編集部 2016年8月23日既存の不動産流通に風穴を開けると宣言し、昨年11月にヤフーとソニー不動産がスタートさせたウェブ仲介サービス「おうちダイレクト」の伸び悩みが指摘される。日本では「不動産テック」は浸透しないのだろうか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 岡田 悟)
「不動産における情報の非対称性への挑戦。マンション流通革命、はじまる」──。昨年11月、ヤフーとソニー不動産がこう高らかに宣言して開始した、インターネットでの不動産仲介サービス「おうちダイレクト」。中古マンションを「自分で決めた価格でいつでも自由に売り出せる」というのが最大の売りだ。
金融とIT技術の融合を指す「フィンテック」に倣って「不動産テック」と称されるサービスの中では最大の注目株だったが、ふたを開けてみれば、スタートから3カ月、2月末時点での成約件数はゼロ。その後複数の成約があったもようだが、件数は非公表であり、実態は不透明なままだ。
(中略)売り手の希望額を成約可能なものに近づける機能が不十分。そのため「売り手の願望がひたすら並んでいるだけのサイトになってしまった」
おうちダイレクト。本日の売り出し件数は投資用物件を除くと30件でした。
記事の要旨をまとめると:
・おうちダイレクトが伸び悩んでいる。成約件数は非公表で実態は不明。
・既存の仕組みと違い業者が売却価格を操作するプロセスを排除して情報非対称性を解除
・しかし、売主と買主の希望価格を近づける機能が無く「売り手の願望が並んでいるサイト」
・個人間売買の場としてサイトを設ける業者は宅建業の免許は不要だが、ソニー側が断った
・おうちダイレクトに限らず、類似サービスは既存の仲介業の延長か派生型に過ぎない
常々申し上げているんですが、不動産仲介業の役割は「欲望の調整」だと思うんですよ。売り手は高く売りたい・買い手は安く売りたい。そのままではマッチングしないので、ここに欲望の調整者がいてマッチングさせる、と。その調整機能を放棄していては、成約がまったく付かないのも当然です。
参考・ソニー不動産シンパさんによるまとめ:不動産テック手のひら返し
私が考えるに「おうちダイレクト」真の狙いは、
「レインズ(既存の不動産仲介業者全員が加入しているシステム)とは独立した、新しいマーケットを作り、そこで流れる情報をすべて独占する」ということだと思うんですね。私なら当然そう設計します。
おうちダイレクトの利用者は初回見学発生時までに、ソニー不動産と媒介契約を結びます。この媒介契約の種類は、「一般媒介」です。(現在、利用規約と使い方ガイドから一般媒介である説明はいつの間にか無くなっています)
「一般媒介」は、レインズへの物件登録義務も成約データの登録義務もありません。よって、今後おうちダイレクトがうまくいった場合、ソニー不動産は成約してもレインズにはデータを登録せず、データはヤフーとソニー不動産だけが蓄積することになります(もしおうちダイレクトの成約がレインズに登録されているのであれば、謹んで訂正いたします)。一方、ソニー不動産はレインズを閲覧できているので自社外のデータは引き続き収集できます。
最終的に、仲介御三家(三井・住友・東急リバブル)規模まで成長できれば、市場の正しい成約データはヤフーとソニー不動産しか把握できなくなり、不動産テックに欠かせない精度の良いデータは彼らしか作れなくなるはずです。
「オープンな不動産売買プラットフォームで日本国内の中古住宅流通市場の活性化に貢献する」ことを目的とするなら、登録状況と成約状況とそのデータも公表すべきかと思いますがどうでしょうかね。
結局、不動産仲介プレイヤーが自社でマーケットを作っても「真の意味でのオープンな市場」は作れないんですよね。
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