前回エントリで、車のオークションについて「高度なシステムが整備されて、各プレイヤーが一方的に損になるような仕組みが排除されている」と書きましたが、車のオークションと中古マンション売買の違いについて補足しなければなりません。表にするとこんな感じでしょうか。
車のオークション会場は一般人はまず入ることができません。参加者はすべて業者です。
プレイヤーのみんなが同じだけの情報を持っているので、抜け駆けができません。結局、プレイヤー間では公正な取引ができることになります。
中古不動産取引において、売買のプレイヤーは「売主」と「買主」です。不動産屋はあくまで売主・買主の「仲介人」ですのでプレイヤーではありません。ですが、情報の非対称性(売主買主と仲介人が持っている情報量が違いすぎる)が存在することから、仲介人がゲームに自由に介入する状況が生まれています。はっきり言えばプレイヤーが損をして仲介人が得をするということになります。
それが前回述べた「囲い込み」であったりするわけです。
モラルハザードを起こしても、仕組みとしてわかりませんので、自らの利潤を最大化しようとするインセンティブが働きます。
情報の非対称性をどのように解消するのか?
私は、情報がタダでもらえるほどこの世の中が甘いとは思っていません。情報を入手するには時間だったりお金だったりと、対価が必要です。
有体に言えば、自分の人生を大きく左右する数千万円の取引を、何も調べずに不動産仲介店に行くのでカモにされるのではないでしょうか。ご自身の仕事上で数千万円の取引がある場合、見積もりも精査もせずに発注することは無いでしょう。不透明な業界慣行は、日本人の不動産取引に対する無知・無策にある程度起因しており、決して仲介店だけの問題だとは思いません。
売出し価格は全くの根拠なしには付けられません。過去の近隣成約事例の延長線上と個別事情から決めることになります。
成約事例はネット上で公開されていませんが、売主でも買主でも、不動産屋に言えば数年前から現在までの成約情報を取り寄せることができます。不動産仲介会社がお互いに物件情報を共有するシステム「レインズ」は、現在の売り物件だけでなく過去の成約データも蓄積されています。
とある不動産屋からもらった事例一覧↓
もし、あなたが売主だった場合:
仲介店が出してきた査定書はこの取引事例から乖離した高い金額が書かれていませんか?
車の売却でしたら、即座に業者が買い取りますので「数社に査定を出して一番高い査定のところと取引をする」という戦略を取れますが、不動産取引の場合、買主が現れなければ価格はあくまでも「売主希望価格」に過ぎません。まず高い査定金額を出して独占契約(専任媒介)を結び、しばらく放置したのち「市場価格」に値下げするように売主に迫る業者は実際にいます。「査定金額が高い業者=一番良い業者」ではありません。
もし、あなたが買主だった場合:
不動産取引は一物一価ですが、ある程度過去の事例がベースとなって取引がされます。自分が欲しいと思う部屋が自分の予算と合わないけど価格と予算が10%程度しか違わないなら、交渉してみるのも良いでしょう。
売るかどうかは売主が決めることです。過去事例を取り寄せ、自分で相場観を掴んだ上で買付申込書に金額を記載しましょう。
P.S.
レインズという効率的なシステムがあるのに、ゲームが歪んでいる理由の一つは、「一軒家は個別事情が大きすぎて、なかなか一般化できなかった」業界の歴史があるでしょう。しかし、一棟数百戸が当たり前の湾岸マンションのような地域(市場)なら、価格付けルールはかなり一般化できるのではないでしょうか。私は、メガマンションが数多くあって大量の成約情報がある湾岸地区なら効率的なオークション会場が存在し得ると考えます。ただし、囲い込みの通報システムが必要です。
もう一つは、「法律で決められている仲介手数料上限」が原因でしょうか。3%+6万円の規定は昭和45年に決められたものです。雇用と事務所コストを考えると、1か月1本の手数料では商売が成り立ちません。仲介手数料を自由化してしまえば、無理に両手を狙うこともなくなるかもしれません。
ご主張に反するかもしれませんが、
私が物件を売る時には、
業者さんに買主さんはしっかり選んでねとお願いします。
つまり信用して頼んだ業者さんが会ってもいない買主が自分の物件を見に来る
なんてお断りですね。
つまり囲い込みをお願いする事になるでしょうね。
東雲住民さん
ご自身がそのように望まれているなら
私は何も反対しませんし、それが正解だと思います。
私は情報の非対称性を武器にして、あくまで仲介人でしかない不動産屋がゲームをコントロールして自己の利益を最大化し、
その行動が消費者側にはわからないのが問題だと思っているだけです。
その通りです。全てを理解している業者が立場の弱い消費者に分からないように売買を成立させているのが大問題です。
目の前に現れた数度しか話をしてない親しくも無い不動産営業に、その資産の増減を全て委ねられるならそれも正解です。
一般の方は業界内で何が行われているかをご存知無いからこそ、信用した営業が知らない方を連れてくるなら囲い込みをお願いするなどと言える訳です。
売る方は価格に納得される水準なら、あえて買う方を選ぶケースはほとんど無いです。
他社紹介で依頼した営業が素性を知らないお客様でも高く買うケースがたくさんあります。
私が紹介する自社のお客様だと300万円損をしますがよろしいでしょうか?とは口が裂けても言わないですから、見えなくても信用なさるならそれで幸せだと思います。
車とマンションのオークション売買の違い
という表がありますが、この比較はミスリードでは?
正しくは
車のオークションとマンション売買の違い
だと思います。
マンションなどの不動産だって、業者間の自ら売主物件においてはオークション可能だと思いますし、その需要があるなら、その世界において情報の非対称性は無いです。
東雲住民さん
そうですね、その表現が正しいです。
まとまった時間ができた時に修正させていただきます