前回のエントリを書いたところ、「いまは新築マンションが上がってるけど、では値下がりするようになったらどうなるの?」という質問を受けました。たしかに、震災後上がり続けている新築マンション価格ですが、いつかは下降局面が来ます。
答えはそんなに難しくなくて、
「中古マンション価格は、新築マンション価格の遅行指数であることから、時間差をおいて下がり始める」
ということです。
首都圏新築・中古価格指数:
(出展:スタイルアクト、ダイヤモンドオンライン「2018年マンション市況に波乱の兆し、自宅購入で大損しない心構え」より)
なぜ中古マンションは新築マンション価格の遅行指数になるのか、理由を考えてみましょう
新築マンションの販売価格のロジックは、各費用の積み増しでできています。
土地代+建設費+借入利息+販管費+想定営業利益=販売価格
となります。もちろん、ライバル物件や景気の動向等の変数はありますが、営業利益の範囲内で調整します。利益率はだいたい20%くらいと言われていますが、中小デベロッパーではもう少し下がったり、建設会社が売り主だと建設費を内製化できたり。
一番大きいのは土地代+建設費であり、この仕入れでほぼ勝負がついています。新築マンションは土地の仕入れから引き渡しまで、数年〜のプロジェクトであり、実は数年後の価格予想も容易です。
一方で、中古マンションの売り主は基本的に個人です。
住宅ローンの残債+仲介手数料より大きければ、手残りが発生します。
住宅ローン残債+仲介手数料+諸費用+売主の手残り=希望価格
こちらが売主側のロジックです。離婚や死別、破産などの場合を除き、中古マンションの売主は住宅ローン残債割れで売ることを避けるために、強い下方硬直性があります。売主側の手残りは多ければ多いほどいいのですが、何が何でも死守するゾーンではありません。
「成約すると思われる価格よりちょっとだけ載せておいて、それで買い主が出てくるのを待ち、現れなかったら値下げの原資とする」というのが売主の頭の中にある発想です。築浅の中古マンションの売出し価格がしばらく落ちないのは残債が減っていないから、という身も蓋もない理由があったりします。
さて仮に、金融緩和が終了して土地代がやすくなり始め、マンション適地をデベロッパーが入手しやすくなった世の中が訪れた、とします。
当然住宅ローン金利も上がるので、消費者の購入可能な価格も減少して、新築マンション価格は下ることになります。しかし、中古マンションの残債減少スピードは変わらないので、売主が考える心理的ライン(住宅ローン残債+仲介手数料+諸費用)を割ってしまうと、売るのを止めてしまいます。
といっても、どうしても手放したい人が一定数市場にはいるので、そうした方たちから成約が発生することになります。だんだんと成約価格が切り下がっていく中で、時間の経過=残債の減少とともに諦めもあり、心理的ラインは下がっていきます。ということで、中古マンション価格は、新築マンション価格よりも遅めに下がることになるのです。
ただし、数年前に比べて世の中の不動産相場が上がっていることから、「売り主の手残り」は現時点で、かなりある人が多いです。リーマンショック前よりも直近では急峻な伸びがあることから、売主側の残債もかなり減っている築10年より前の中古マンションの値下がりは、案外早く新築に追従するかもしれません。
P.S.
雑誌やウェブ記事でよく「湾岸タワマン大暴落!」というタイトルがありますが、書いてる本人達の頭の中には上記のようなロジックではなく需要と供給の単純な図式しかありません。はっきり言って素人以下の分析が転がってます。リーマンショック後にアウトレットマンション等で一気に在庫一掃処分があったことは事実ですが、それは新興系デベロッパーがバタバタ倒れたからであって、いま生き残ったマンションデベロッパーの資本力と、新築マンション原価の高止まりを考えると、売れなくなった→即暴落という図式が当てはまらないことがわかります。
中古マンションの売り主もまた、個別のロジックを持った集合体で、単純に需要供給だけで決まりません。ミクロに事情をみていくと、売手側の残債や個別の深刻さによって、売り急いでいるかそれともしばらく待てるかで売出し価格は全く違うものになるのです。
いつも読ませていただいております。
> 土地代+建設費+借入利息+販管費+粗利益=販売価格
一般的に「粗利益」と言ったら、売上総利益のことを指すので、
販管費は含まないのでは、と思ったのですが、
この業界特有の定義(粗利益=営業利益?)があるのでしょうか。
すみません、ちょっと気になったものですから。
ですよね。営業利益に変更しました。