Twitterでちょっと話題になったので。
昭和中頃くらいまで、日本人のほとんどの人にとってセキュリティという概念はほぼありませんでした。いまでも在宅中に鍵をかけるということはほぼ無い、という田舎は実在します。近くで採れた野菜や魚を持ってきたり、部屋で飲んでいたらおーいと近所の人がチャイムも鳴らさず上がり込んできて一緒に飲む。私の田舎では普通のことです。
しかし、都会となるとそうもいきません。戸締まりを含めたセキュリティをみんなが気にします。都会は匿名性が高く、まずは相互不信を基に社会が成り立っているからです。だから、分譲マンションやグレードの高い賃貸マンションでは、複数回のオートロックがあった上に、セコムのセキュリティロックなどが用意されています。
しかし、セキュリティウォールを高めれば高めるほど、マンションの部屋の中で人が介在する必要があるリアルのサービスを受けにくくなります。
いまや男性も女性も等しく働く時代。いちばん大切なのはお金よりも時間という世の中です。
買物代行や料理代行、宅配の玄関受け入れ、片づけと掃除などは、現状ロボットでは務まりません。こうした時短サービスは留守中に人を部屋の中に上げる必要があります。セキュリティと利便性の両睨みの中、鍵の仲立ちとどこまで入っていいかのコントロールを、IoTで解決しようとするサービスが出てきています。例えば、株式会社ライナフさんのこのようなサービスです。
コンセプトムービーとニュースリリースを読むと、「事前に認証された会社のサービスのみ、鍵を解除できる」「リモートカメラでいつでも玄関先を確認できる」「リビング前までの扉にもう一段の鍵を付け、宅配とそれ以上のサービスのレイヤーを別けることができる」というサービス設計のようです。
なるほどよくできている。一人暮らしやお互いに仕事で忙しいDINKSには嬉しいサービスだと思います。
上記の類似サービスもしくは同内容のサービスを導入する分譲マンションが、湾岸でできるそうです。
ホームページを確認すると、「合理を追求した都市型パッケージ」が物件のコンセプト。「玄関と宅配ロッカーを組み合わせて、荷物受け取りできるようにしています」と書かれています。上記のようなサービスなのでしょう。
うん、なるほど素晴らしい。
しかしちょっと待ってください。これは人が長く住む分譲マンションの企画ですよね?
宅配ロッカー機能が必要なら玄関の中ではなくて玄関のすぐ外、共用廊下側にトランクルーム的な場所をまず作るべきなのでは?こういったアルコーブが無い玄関を共用廊下に並べてしまうと、扉を開けた時に往来する人とぶつかってしまうので、こうした設計はしばらく前まで分譲マンションではほぼ見ることがありませんでした(安普請の賃貸マンションなら普通)。上記の間取りで考えれば、玄関扉の位置を若干下にずらして廊下の線と一致させれば、最低でも下足入部分玄関の外となり、ここに宅配用のトランクルームを設けることができたはずです。
なぜこうしないのでしょう?
それは、玄関の位置をギリギリまで寄せることによって、同じ建設コストで専有面積をちょっとでも稼ぐことができるからです。こう考えると、このIoTの導入が分譲マンション建設のコストダウンのバーターとして使われていることが透けて見えてしまいます。
分譲マンションは、10年、20年、30年と長く使っていくものですが、このサービスは10年後も同レベル以上でサービスを提供し続けられるのでしょうか?また将来家族構成の変化が生じた時に、この宅配業者が玄関の中まで入れる仕様が合っているのでしょうか?
(このマンションに、サービスを使わない人のために宅配ロッカーが導入されているならこのサービスを使わなければいいだけなのですが、全部の部屋が宅配ロッカー機能が付いているということでオミットされていると・・・略)
まだまだ変化の激しいIoT世界のサービスを分譲マンションに導入するのは、付加サービス程度に組み込んで、オプションで付ける余裕があるよねくらいにとどめておくのが、のらえもん的には正解な気がします。分譲マンションはなるべくアナログで実現できるところは実現して、基本的な居住性能・建物性能を上げる方が良いのではないでしょうか。
建設コストの圧縮のバーターとしてIoT導入が今後の新築マンションのスタンダードにならないか、若干心配しています。
P.S.
私はこのマンションの購入は奥様からの許可が絶対に降りないと確信しています。知らない方を家に上げることを、全く心配されていない人たちがサービスを設計されたんだと思いますが、うーんうーん、どうなんでしょうかね。このマンションはこういうの抵抗ない人が買うんだから問題ないでしょう?と言われても、これがこれからのスタンダードな形にはなってほしくないかな・・・。失礼しました。
充分にかしこい人たちは、スマホの画面をチェックできるから知らない人が来てもリビングに入れないからあんしん!と思うのかもしれません。
しかし、世の中の多くの人は「知らない人を家に上げたくない」のではないか。宅配業者はお手伝いさんと違って、顔見知りではありませんから。 https://t.co/PfFuQDUVIg— のらえもん (@Tokyo_of_Tokyo) July 6, 2019
テックとかベンチャーのひとが考える”イノベーション”がほんとうにイノベーションなのか、人の感覚の侘び寂びを無視したズレた”押し付け”なのか、はいつも興味があります。
— 全宅ツイのグル (@emoyino) July 8, 2019
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