のらえもんは湾岸の妖精です。読者は湾岸タワーマンションに居住するひとたちがメインです。こういう読者層相手にこれを発信するのは、正直なところ若干気が引けます。
これを発信しても私には一円の得もありませんし、むしろ自分の資産評価が下がる話を自分でしているわけです。だからこそ書ける、とも思っています。
のらえもんを名乗って15年、震災直後からこの街を見続けて発信してきました。五輪の招致と延期があり、豊洲市場の延期と失望があり、環状2号の開通があり、豊住線の決定があり、そしてコロナがありました。それでも、いまほど「明確な後退局面だ」とはっきり言える相場は、私の記憶にはありません。
目次
2年遅れでやってきた「2024年問題」
もともと2022年あたりに、私と現FJリアルティの藤田さんで「2024年問題」というものを唱えていました。
ロジックはシンプルです。晴海フラッグとパークタワー勝どきという、空前絶後の住み替え供給がやってくる。あれだけの戸数が一斉に引き渡されれば、住み替え元となる周辺の中古タワマンが大量に売り出される。結果として供給過剰になり、需給バランスが崩れて、湾岸タワマンは値下がりする、という連想ゲームの話でした。
結論から言えば、2024年には来ませんでした。むしろ2023年から2024年にかけて、湾岸の中古相場はさらに一段上がりました。私たちの予想は外れたわけです。
そして2年遅れで、需給バランスの崩壊がやってきます。
なぜ2年ずれたのか。答えは「その間、買い手が大量に現れたから」です。
上げ相場は、何に支えられていたのか
2020年以降、特に2023年からの上昇は激しいものとなりました。この時期の湾岸には、それまで主役ではなかったタイプの買い手が2種類、登場していたと思っています。
ひとつめ:買取再販業者
中古マンションの話をします。23〜24年の局面で最も積極的だったのは買取再販業者です。特に一部の業者は中華系の販売ルートがあるということで、中古タワマン売り出しに満額で手を挙げてどんどん買っていきました。
売主から見れば非常にありがたい買い手です。指値は入らない、内覧は一度で済む、決済も早い。そしてその買取価格が次の「直近成約事例」になり、相場はさらに一段上がっていきます。この循環が、ここ2〜3年の湾岸中古を押し上げてきた大きな要素だったと私は見ています。
ふたつめ:「上がるから買う」方たち
もうひとつが、「上がるから買う」という方たちの登場です。2023年ごろから顕著になりました。
見ていると、大きく2つの宗派があるように思います。
ひとつは、従来であれば賃貸マンション経営をされていたり、既に事業などで資産をお持ちだった方たちです。「タワマン転売は儲かる」ということで参入してこられました。晴海フラッグ供給のあたりから顕著でした。新築マンションが主な舞台でしたが、一部は中古マンションも購入されました。
もうひとつは、「タワマンは資産性が高い。湾岸エリアは築地の再開発や湾岸地下鉄も含めてこれからもアツい。だから上がる。だから買う」という方たちです。
前者は投資として、後者は住みながらの資産形成として入ってこられたわけですが、判断の軸はどちらも「上がるから」で共通しています。
つまりこの2〜3年の需要は、純粋な実需だけで成り立っていたわけではありません。この2種類の買い手が、2024年問題で想定していた供給を吸収してくれていた。だから需給バランスの崩壊は2024年には起きなかった、という見方ができます。そして、その循環がいま止まりました。
そして、買い手が消えていきました
1. 中国本土からの移住ルートが細った
経営管理ビザが厳格化され、過去に取得された方々へのビザの扱いも厳しくなるということで、中国本土からの移住そのものが難しくなってきました。
さらに中国側でも動きがあります。今年9月15日が出入国管理規定の改正施行日にあたり、中国人を出国させない方針で運用されると言われています。出る側と入る側、その両方から蓋がされた形です。
結果として何が起きたか。まず買取再販業者が買い手として市場から消えました。出口が見えなくなれば、在庫を抱えて回す商売は成立しません。そして移住目的の買い手そのものも来なくなっていきました。
2. 日銀の利上げ 効いているのは0.25%ではない
もうひとつが、2024年3月から徐々に始まっている日銀のゼロ金利解除の影響です。
いまは政策金利1%。9月の金融政策決定会合で0.25%の利上げがあるのではないか、と言われています。またこの利上げだけでは終わらず、まだ上げるとのことです。1%という水準は、期待インフレ率とCPIの推移からするとまだ緩和的という判断でしょう。
ここで強調しておきたいのは、住宅ローンの世界において0.25%というのは些細な差でしかないということです。月々の返済額で言えば数千円〜1万円程度の世界です。それよりはるかに大きく影響するのは、審査金利のほうです。
ゼロ金利政策下だった3年前と違って、いま審査金利は3.5〜4%。がんばっても年収倍率は7倍程度にしか伸びなくなりました。今後さらに政策金利を上げるのであれば、銀行の審査金利も更に上がっていきます。年収倍率は低くなるわけです。
湾岸タワマンの主要購買層はエリサラであり、彼らは住宅ローンを使って購入します。つまり金利上昇局面において、このエリアの購買力は構造的に下がっていくということです。ここは避けようがありません。
3. そして「上がるから買う」方たちは、下がる相場では買いません
当たり前の話なのですが、これがいちばん効いているかもしれません。
「上がるから買う」という判断軸は、上がっている間しか成立しません。転売で利益を出すつもりの方は、相場が下を向いた瞬間に手を引きます。資産性を理由に住まいを選んでいた方も、「いま買わないと置いていかれる」という焦りがなくなれば、あわてて動く理由がなくなります。来月から入居が始まるリビオタワー品川が「手付け放棄かそれとも新築価格と同値段で撤退か」とXで騒がれているのはこれが理由です。
ですからこの需要は、相場が反転すると自然に消えます。誰かが規制したわけでも、金利で弾かれたわけでもなく、前提が崩れただけです。
そしてここが重要なのですが、この方たちは買い手であると同時に、これから売り手になり得る存在でもあります。上がる前提で持っている物件は、上がらない前提になれば持ち続ける理由が薄くなるからです。
ここ2〜3年の需要はブーストされていた、と私が考えるのはこういうわけです。ブーストが切れたあとに残るのは、住宅ローンを使って住むために買う実需の方たちで、その購買力は前述のとおり審査金利によって絞られています。
数字で言うと
昨年秋を頂点として、エリアトップと言われるマンションほど下げ幅が大きくなっており、観測できているのは頂点から-15%程度となります。上げ相場で最も買われたものが、下げ相場で最も戻る。いつもの話ではありますが、年間の値下がり幅としては相当振れ幅が大きいと感じます。
そして豊海タワーの引き渡し前から、さらに在庫が出てきます。現在の滞留在庫を消化できるほど買いの手が強くない状況で、です。これから日銀がまだ金利を上げるとなれば、審査金利はさらに上昇していきます。
2022年に私たちが話していた需給バランスの崩壊が、ようやく実際の数字として見えてきた、というのが現在地です。
社会全体の流れの話
もう少し大きな話をさせてください。
住宅相場が上がっている状況下では、政府としてできる方針は2つしかありません。
- A:住宅価格を下げる・供給を増やす
- B:金融を緩めて、高い価格でも買えるようにする
アベノミクス以降、ずっとBの流れがきていました。ペアローンが当たり前になり、35年を超える住宅ローンの利用率が上がり、フラット35の上限も1.2億円に引き上げられ、最近では残価設定の住宅ローンまで登場しています。
これはつまり、「住宅価格そのものを下げるのではなく、購入者の”借入可能額”を増やして価格に追いつかせる政策」とも言えます。
しかし、金融庁は違います。金融庁が見ているのは銀行の健全性と利用者保護です。共同通信が本日付で「50年住宅ローンの実態を監視 金融庁、26年行政方針」というニュースを配信していました。許認可権を持つ役所は絶対であり、民間金融機関は貸し出しに対して慎重にならざるを得ないでしょう。
Bの蛇口が閉まりつつある、ということです。
日銀が政策金利を上げ続ける限り、そして雇用者が大幅な年収増加を勝ち取らない限り、上がったマンション価格で買えるプレイヤーは減っていくことになります。
ただし、これは一方的に悪い話でもありません。日銀が政策金利を上げる理由のひとつに雇用者報酬の上昇があるわけですから、これから年収が上がっていく若い人にとっては悪い話ではないのです。頑張って自身の市場価値を上げ、正当な報酬をもらえるところを探し、転職することによって、年収は上げられます。
では、何が起きれば相場は戻るのでしょうか
湾岸エリアのタワマン価格が再び回復して上昇基調になるには、以下の4つのシナリオが考えられます。
- 金利が上がらなくなり、下がり始める。 ただしこれは不景気になったことを意味します。
- エリサラたちの賃金がさらに上昇する。 相当上がった物件価格を追い越すくらいまで上がるには、時間がかかりそうです。
- 賃料が上がり、利回りが投資に値するところまで回復する。 ただし金利が上がるなら、投資家が欲しい利回りもその分上がります(政策金利2%のとき、表面利回り4%では赤字になります)。
- 円相場が崩壊レベルで安くなり、海外の人が買いに来る。 その場合、日本人は買えなくなります。
並べてみればおわかりのとおり、どれも手放しで喜べるシナリオではありません。
どう行動すればよいか
買いたい方・売りたい方それぞれに向けて書きます。私はどちらの味方でもありませんので、両方に同じだけ率直に書くことにします。
買いたい方へ
ここ数年でマンション価格は跳ね上がりましたので、多くの売主は「下げしろ」を持っていると考えてよいでしょう。
まずやるべきは、自分が無理なく返していける返済額を算出することです。銀行が貸してくれる額と、自分が無理なく返せる額はまったくの別物です。
そのうえで、買いたいマンションに対して指値をしていくとよいと思います。「売る理由のある売主」から、値下げを飲んでくれます。
売りたい方へ
「市場に滞留している売れ残り物件」というレッテルを貼られることだけは避けたほうがよいでしょう。
昨年の高値の成約値はあくまでもデータであり、いまあの価格で買う人は消滅しました。このマーケット下において「ワンチャン」は存在せず、高めに出しておけば、たまたま高く買う人が現れるかもしれない・・・ということは、いまは起きません。単に掲載期間だけが伸びていき、買い手から「この物件は売れ残っている」と見られることです。一度そう見られてしまった物件は、後から価格を下げても足元を見られます。
直近の成約事例を聞き、そしてその相場で出すこと。遠回りに見えて、結局いちばん高く売れる方法です。
住み替えをご検討の方へ
売り先行をおすすめします。
下げ相場の場合は買い手が有利となります。まずは物件を売って、手元に入る金額を確定させる。そのうえで、落ち着いて次の物件を探せばよいと思います。買い先行のコースでは、売却期限が決められてしまいますから、指値を飲むしかなくなります。
おわりに
冒頭にも書きましたが、私は湾岸タワマン住まいです。
この記事を書いても一円の得もありません。
それでも書くのは、15年この湾岸エリアに住みながら発信してきた者の役割だと思っているからです。上がるときには上がると言い、下がるときには下がると言う。2022年に外した「2024年問題」も、外したまま黙っているのではなく、2年遅れで来たと書いておくべきだと考えました。
念のため申し添えておきますと、湾岸という街そのものの価値が落ちたわけではありません。この10年で街は着実に良くなってきましたし、これからも良くなっていく場所だと思っています。住みやすく、魅力的な街です。ただ、街の価値と価格はまったく別の論理で動きます。いまはその別の論理、金利と買い手の顔ぶれの変化が強く効いている局面だ、というだけの話です。去る者追わず、来る者拒まず。私はこの精神で、このエリアで起きていることをそのまま書いていきます。























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